みちのく潮風トレイルの八戸市区間を大久喜まで歩き切ったゲストが、帰ってきてほぼ必ず聞くことがあります。「この先はどうなっているんですか」。
この先は階上町です。八戸市の南隣、JR八戸線でそのまま続いていく町で、トレイルはここから約33km。八戸市区間の倍以上あります。そして1,000kmを超えるこのトレイルの中で、階上町区間だけが山を登ります。標高739.6mの階上岳です。
つまり「昨日の続きを歩く」感覚で行くと、いろいろと足りません。この記事は、その足りないものを先に潰しておくための、一日の組み立て方です。
八戸市区間の先はどうなっているのか

JR八戸線は、八戸市区間の南端である大久喜駅を出たあとも海沿いを走り続けます。金浜、大蛇(おおじゃ)、そして階上。町の境を越えても、線路と海の距離は変わりません。
階上町が案内しているトレイルは、この大蛇駅のあたりから始まります。海の近くから昭和の面影が残る商店街を抜け、里山に入り、階上岳を登って下り、また海に出て、県境の小舟渡(こみなと)海岸で終わる。町はこれを「里地・里山・里海」の道と説明しています。海沿いを一本で行く八戸市区間とは、地形も景色も別物です。ルートの全体像は階上町のみちのく潮風トレイルのページにまとまっています。
同じ名前でも、性格がまるで違う道です
八戸市区間をゲストに勧めるとき、私はいつも「平らで12km、疲れたらどこでも降りられる」と説明しています。あの区間の良さは、失敗できることです。
階上町区間は、その三つがすべて違います。約33kmで、740m近い山をひとつ越え、そして海沿いを離れている間はJR八戸線から遠ざかります。通しで歩けば標準的な所要時間は11時間を超える計算になり、日帰りで片づけられる道ではありません。ロングトレイルを歩き慣れた人が数日かけて通す区間だと思ってください。
ただ、これは「日帰りのゲストには無理」という意味ではありません。切り方を間違えなければ、一日で十分に楽しめます。私がゲストに渡しているのは、通しの33kmではなく、次の三つの選択肢です。①は公式ルートを外れて海沿いだけを歩く形、②と③は公式ルート上の階上岳を目的にする形です。
一日で歩くなら — 三つの切り方
① 海だけを歩く(大蛇 〜 小舟渡海岸)
先に断っておきます。これはみちのく潮風トレイルの公式ルートではありません。前の章に書いたとおり、標識のあるルートは大蛇のあとに海を離れて里山に入り、階上岳を越えてから小舟渡の近くで海に戻ります。ですから大蛇から小舟渡まで海沿いに歩いても、途中にトレイルの標識は出てきません。探しても無いので、そのつもりで行ってください。
そのうえで、山を外して海沿いだけを歩きたい方に私が勧めているのがこの形です。大蛇駅か階上駅で降りて、階上海岸を南下し、県境の小舟渡海岸まで。八戸市区間で見た岩礁と芝生の海岸線が、そのまま県境まで続いていることが体でわかります。ただし一本につながった遊歩道があるわけではなく、海沿いの道をつないでいく形になります。距離も歩く線の引き方で変わるので、出発前に地図でルートを決めておいてください。
歩き慣れていない方、時間が半日しかない方、前日に八戸市区間を歩いて脚が残っていない方には、まずこれを勧めます。帰りはJR八戸線の駅に戻るだけなので、エスケープの組み立ても八戸市区間と同じ考え方で済みます。
② 山だけを歩く(大開平 〜 階上岳山頂)
「トレイルで唯一の山に登った」という一日を、いちばん短時間で作れるのがこれです。階上岳は8合目の大開平(おおびらきたい)まで車道が通っていて、大開平から山頂までは緩やかな散策路が整備されています。町の案内では30分程度。登山というより、稜線の散歩に近い時間です。
山頂まで自分の足で登りたい方には、フォレストピア階上を起点とする大人向けのコースがあります。片道4.79km・約2時間。行程と登山口の詳細は階上町の階上岳(臥牛山)のページを見てください。
階上岳は、なだらかな山容が牛の寝そべる姿に見えることから臥牛山(がぎゅうざん)とも呼ばれます。2013年5月に階上海岸とともに三陸復興国立公園に指定されました。8合目の大開平は天然のツツジの群生地で、5月下旬から6月上旬の花の時期は登山者が絶えません。
③ 寺下観音から山へ入る
階上岳の登山道は、町の中央部の登山口、西部の田代地区、そして観音堂のある寺下と、いくつかの入口があります。三つ目の寺下から入るのが、トレイルの区間としてはいちばん階上町らしい選択です。里の信仰の場から山に上がっていく道筋になるので、「山と海をつなぐ道」という区間の説明が、歩いていて腑に落ちます。
体力に自信がない場合は、寺下観音の境内だけを歩いて山には入らない、という選び方もできます。境内と周辺を回るだけで、それ自体が一つの見どころです。
寺下観音と潮山神社 — 樹齢800年の銀杏
寺下観音は、階上町区間で私がいちばん行ってほしい場所です。潮山(しおやま)神社の社殿は、寛永3年(1626年)に建てられた旧観音堂がそのまま使われています。
そのすぐそばに立つ銀杏が、推定樹齢800年、幹周10.1m、樹高23m。数字で書くとただの大木ですが、実際は幹の太さのほうが先に目に入ります。周辺には町の巨木・古木に登録されている「寺下観音のフジ」「寺下のメタセコイア」「龍神の松」もあります。
境内と燈明堂跡などの周辺を回る、約60分の散策コースが整備されています。トレイルを歩かない日でも、ここだけを目的に行く価値があります。八戸の街なかから足を延ばす一日として、エリアガイドに載せている行き先とはまた違う種類の時間になります。
小舟渡海岸 — 青森でいちばん早く朝日が昇る場所
階上町区間の終点、小舟渡海岸は、青森県と岩手県の境です。海側と陸側の両方に県境石が置かれていて、陸のほうは昭和26年(1951年)に建てられたもの。境界を示す石が海の中にもある、というのがこの場所のわかりやすい面白さです。
海岸には高さ11mの階上灯台が立ち、その足元になだらかな芝生地が広がります。芝生が海まで来ている風景は種差海岸と同じ系統ですが、こちらは観光客がぐっと少ない。三陸復興国立公園の一画で、芝生地と岩礁地帯が入れ替わる変化のある海岸線です。
そしてここは県内最東南端にあたり、青森県で一番早く朝日が昇る場所とされています。日の出を狙うなら足の問題(後述)が最大の壁になりますが、狙う価値のある場所だとは伝えておきます。
足の問題 — 駅から先が、ない
階上町区間でいちばん現実的な難所は、山ではなく交通です。八戸市区間には遊覧バスうみねこ号があって見どころを拾っていってくれましたが、階上町にはそれに当たるものがありません。
- JR八戸線 — 大久喜、金浜、大蛇、階上と駅は続きます。ただし本数は日中でおおむね1〜2時間に1本。都市の感覚で駅に着くと、そこから1時間待ちます
- 階上町コミュニティバス — 町内を走っています。路線と時刻は町の公式サイトで確認してください。観光路線ではないので、時間帯によっては使えません
- タクシー — 町内に事業者があります。階上岳の登山口へ入る場合、現実的な足はこれか自家用車です。JR階上駅から登山口まで車で約20分が目安
- 車 — 階上岳は8合目の大開平まで普通車で上がれます。ただし7合目から先は道幅が狭く、大型車は通行困難。バスなどはふれあい牧場の駐車場を使うことになります
整理すると、①の海コースは電車だけで完結します。②③の山は、タクシーかレンタカーが要ります。ここを曖昧にしたまま出発すると、階上駅に着いてから詰みます。歩き始める前に、帰りの電車を2本メモしておくのは八戸市区間と同じです。八戸駅からの移動全般はアクセスのページに、八戸駅と本八戸駅の使い分けは駅の記事にまとめています。
食べるものと買うもの
階上町は海の町なので、歩いたあとに寄る場所があります。
大蛇にある「はしかみハマの駅あるでぃ〜ば」は、階上町で水揚げされた海産物の直売所です。軽食の「あっぱぁかっちゃぁ'ズ」とレストラン「Mar(マール)」が入っています。営業時間は4〜11月が9:30〜18:00、12〜3月が10:00〜17:00。月曜定休(祝日の場合は翌火曜)で、年末年始は12月31日から1月4日まで休みです。海コースの起点である大蛇駅のそばなので、歩き始める前にも歩き終わったあとにも寄れます。
もうひとつが道の駅はしかみ(ふるさとにぎわい広場)。9:00〜18:00で、12月31日から1月2日が休館です。ここでは階上早生(はしかみわせ)のそばが名物で、手打ちのそばをその場で食べられます。それから、いちご煮の缶詰。ウニとアワビの吸い物で、八戸から階上にかけての郷土料理です。持ち帰れる形になっているので、土産としてはこれがいちばん土地のものらしいと思います。
営業時間や休みは変わることがあるので、行く前に階上町の公式サイトで確認してください。造り手を訪ねる地域体験は八戸市内でご案内しています。
季節と装備 — 八戸市区間との違い
海だけを歩くなら、季節の考え方は八戸市区間と同じです。9月から11月が歩きやすく、冬は風が強い。持ち物も同じで足ります。
山に入るなら、話が変わります。八戸市区間は「歩き慣れた靴と風を防げる上着」で成立しましたが、階上岳は標高739.6mの山です。次の三つは、海だけの日とは別に考えてください。
- 日没 — 山の下りは平地より暗くなるのが早い。秋以降は、下山開始の時刻を先に決めてから登り始めてください
- 気温 — 海沿いと山頂では体感が変わります。海で暑いくらいの日でも、上に一枚は必ず持つこと
- 帰りの足 — タクシーで登山口に入ったなら、帰りの手配も先に。電波の入らない場所で呼ぶことを前提にしないでください
みちのく潮風トレイルは全体として、紙のトレイルマップを携帯して歩くことを前提に標識が整備されています。海沿いで迷いにくかった八戸市区間と違い、階上町区間は里山と商店街を抜ける部分があるので、現在地の確認がより必要になります。マップの最新の入手方法は環境省のみちのく潮風トレイル公式サイトで確認してください。
Nvillageから通うなら
階上町には歩く人向けの宿が多くありません。そのため、八戸駅の近くに拠点を置いて通うのが現実的です。JR八戸線は八戸駅から出ていて、新幹線もここに着きます。Nvillageは八戸駅西口から徒歩10〜12分。スマートロックのセルフチェックインなので、山から降りる時刻が読めなくても大丈夫です。
この区間を歩くゲストには、連泊を勧めています。一日目に八戸市区間の12km、二日目に階上町の海か山、というふうに分けると、どちらも中途半端にならずに済むからです。二日歩いた服を洗濯機と乾燥機でその日のうちに片づけられること、バレルサウナ(有料・要予約)で脚を戻せることは、二日目の朝に効いてきます。
どの切り方が合いそうかは、滞在の日数と、前日に何を歩いたかで変わります。客室の空き状況や日程が未定の段階でも構いませんので、お問い合わせページからご相談ください。歩く日の天気と電車の時刻は、こちらでも一緒に見ます。