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八戸せんべい汁を食べる — せんべいが煮崩れない理由と、店の探し方

八戸せんべい汁を食べる — せんべいが煮崩れない理由と、店の探し方

秋が深まると、ゲストに勧めるものが変わります。夏はイカと刺身の話をしているのですが、寒くなってくると「八戸せんべい汁を出す店に一度入ってみてください」と言うようになる。八戸の郷土料理で、名前のとおり、せんべいを汁に入れて煮込みます。

この説明をすると、たいてい怪訝な顔をされます。せんべいを汁に入れたら、ふやけて溶けてしまうのではないか、と。実際に食べてもらうと納得してもらえるのですが、先に理屈を知っておいたほうが楽しめるので、Nvillageでいつも説明していることを、この記事にまとめておきます。何なのか、なぜ煮崩れないのか、どこで食べられるか、いつが食べ頃か。

八戸せんべい汁とは — 「おやつのせんべい」ではない

八戸せんべい汁は、肉や魚と野菜・きのこでだしを取った汁に、汁もの専用に作られた南部せんべいを割り入れて煮込む鍋料理です。もっとも一般的なのは鶏だしの醤油味で、そこに野菜と糸こんにゃくが入ります。農林水産省の「うちの郷土料理」によれば、岩手県北部から青森県の太平洋側にかけて、およそ200年前から家庭で食べられてきた料理だとされています。

背景にあるのは米が穫れなかったという事情です。この一帯は冷害が多く、江戸時代後期には凶作や飢饉で米が手に入りにくかった。代わりに小麦やそばが作られ、小麦粉と塩を鉄の型で焼いた南部せんべいが、貴重な保存食になりました。旧南部藩の領地だった青森県南東部から岩手県北部にかけての伝統食品です。詳しい成り立ちは農林水産省「うちの郷土料理」のせんべい汁の項にまとまっています。

つまり、ご馳走として生まれた料理ではありません。ある物で腹を満たすための鍋です。八戸で出てくるせんべい汁は、観光用に作られた新しい名物ではなく、この土地の台所からそのまま出てきたものです。2007年には農山漁村の郷土料理百選にも選ばれています。

なぜ煮崩れないのか — 汁専用の「おつゆせんべい」

ここがいちばん誤解されるところです。せんべい汁に入れるせんべいは、お茶うけに食べるごませんべいや落花生せんべいとは別物で、「おつゆせんべい」「かやきせんべい」と呼ばれる汁専用のせんべいです。

八戸せんべい汁研究所の説明では、おつゆせんべいは小麦粉・塩・重曹だけで作られ、煮込むことを前提にした製法を採っているため、煮込んでも煮崩れしません。歴史的にも、戦後に製造業者が「汁を吸っても煮崩れせず、もちもちした食感になる」せんべいを開発し、汁用として売り始めたのが今の形の始まりです。

なので、お土産で買ったごませんべいを家で汁に入れても、八戸せんべい汁にはなりません。ここは実際に何度か言われたことがあるので、買うときに気をつけてください、と伝えています。袋に「汁用」「おつゆせんべい」「鍋用」と書いてあるものを選んでください。

食べ頃は「アルデンテ」 — 出てきてから待つ時間

店で鍋ごと出てきたときに、すぐ食べるとまだ硬いことがあります。研究所は食べ頃を「コシのあるうどんの柔らかさ」、パスタでいうアルデンテの状態と説明していて、これがいちばん分かりやすい目安だと思います。

煮すぎると、今度はだしを吸ってふやけていきます。ふやけたものが嫌いだという人もいれば、むしろそこが好きだという人もいるので、正解はひとつではありません。ただ、初めての方には「硬いうちに一枚食べて、しばらく待ってからもう一枚食べてみてください」と勧めています。同じ鍋の中で食感が変わっていくのが、この料理のおもしろいところだからです。

食べるときは、せんべいを箸で持ち上げると割れやすいので、レンゲか小皿を添えると扱いやすくなります。麺類のように吸い込むものではなく、だしを含んだ小麦の生地を食べるものだと思ってください。

だしのバリエーションと、「せんべいかやき」

標準は鶏だしの醤油味ですが、港町なのでバリエーションがあります。タラや焼きサバを使った塩味仕立て、家庭ではサバの水煮缶を使う簡便な作り方、八戸の名物である馬肉を使った味噌味の桜鍋仕立て。店によって、また家によって違います。具材は鶏もも肉・豚肉・ゴボウ・ニンジン・キャベツ・長ネギ・糸こんにゃく・きのこあたりが定番です。

八戸市の広報にも家庭向けのレシピが載っていて、3〜4人分でせんべい汁用せんべい10枚、鶏もも肉45g、豚肉20g、ゴボウ4分の1本、という配分が示されています。肉は驚くほど少ない。だしが主役で、せんべいがそれを受け止める料理だ、というのが分量から見て取れます。

もうひとつ、地元の言い方に「せんべいかやき」があります。研究所の用語解説によれば、これは鍋料理を普通に作って、具が減ってきた頃合いにおつゆせんべいを入れ、いろいろな具から出ただしでせんべいを煮る食べ方のこと。日本の鍋でいう「〆」にあたります。最初からせんべいを入れて煮るのがせんべい汁、鍋の最後にせんべいで締めるのがせんべいかやき、と考えると分かりやすいはずです。居酒屋で鍋を頼んだときに「せんべい入れますか」と聞かれたら、それはこちらの話です。

サバが出てくるついでに書いておくと、八戸のサバとイカには旬があります。時期の話はサバとイカの記事にまとめました。せんべい汁は通年ありますが、サバだしのものを狙うならこちらも読んでおいてください。

どこで食べられるか — 市内200軒近くから選ぶ

夜の八戸の横丁。提灯が並ぶ石畳の細い路地の両側に、小さな飲み屋の引き戸が続いている

せんべい汁は、八戸では特別な店に行かないと食べられない料理ではありません。市内で出している店は200軒近くあると言われていて、八戸せんべい汁研究所がガイドマップとして一覧を公開しています。店ごとにだしも具も違うので、まずはこの一覧から、行こうと思っている場所の近くを探すのがいちばん早い。

研究所には「八戸せんべい汁おもてなしマイスター」という制度もあります。せんべい汁の歴史や、なぜ汁にせんべいを入れるのかを説明できるように、飲食・観光の従事者が講座を受けて認定される仕組みです。話を聞きながら食べたい方は、そういう店を選ぶと当たりが早いと思います。

実務的な選び方を3つ書いておきます。

  • 夜に飲みながら食べたいなら中心街の横丁へ。みろく横丁のような屋台村は小さな店が集まっていて、鍋物を出す店が多い。ただし営業時間は店ごとに違い、夕方17時ごろから始まる店が中心です
  • 昼に食べたいなら、市街地の食堂や八食センターの飲食店を当たるほうが確実です。横丁は昼にやっている店が限られます
  • ひとりだと鍋を頼みにくいことがあります。一人前で出す店も多いので、入る前に「せんべい汁、一人前ありますか」と聞くのがいちばん早い

どの横丁がどういう性格か、街のどこに何があるかはエリアガイドにまとめています。

B-1グランプリ発祥の地としての八戸

せんべい汁の名前が全国に出たきっかけは、B-1グランプリです。この大会そのものが八戸から始まっています。2003年11月に発足した市民団体・八戸せんべい汁研究所が企画プロデュースし、第1回大会は2006年2月に八戸市で開かれました。10団体が出展した、小さな催しでした。

八戸せんべい汁自身は、その第1回で4位。第2回から3年続けて2位、第5回から2年続けて3位と、優勝の手前で足踏みが続きました。ゴールドグランプリを獲ったのは、2012年11月、北九州市で開かれた第7回大会です。地元の駅では出迎えの人が出るような話題になりました。優勝した団体はその後の投票対象から外れる仕組みなので、これが八戸せんべい汁のB-1グランプリでの区切りになっています。

この経緯をゲストに話すのは、自慢したいからではありません。せんべい汁が、街の人が10年近くかけて外に押し出してきた料理だと知って食べるのと、ただの珍しい鍋として食べるのとでは、味の受け取り方が変わると思っているからです。八戸の作り手を訪ねる地域体験を勧めているのも、同じ理由です。

持ち帰る — セットを買うか、せんべいだけ買うか

八戸の八食センター市場棟の通路。両側に鮮魚店の平台が並び、買い物客が行き交っている

気に入った方は、持って帰れます。買い方はだいたい2通りです。

  • セットを買う — だしとせんべいが組みになったものや、温めるだけのレトルト・カップ入りが何種類も出ています。作り方を考えなくていいので、料理をしない人へのお土産に向きます
  • 汁用せんべいだけ買う — 自分でだしを取る前提なら、こちらのほうが安く、荷物も軽い。乾物なので常温で持ち歩けます

買える場所としてよく案内しているのは、八食センターと、八戸駅に連絡通路で直結しているユートリーのおみやげショップです。ユートリーは県内の特産品が2,000点ほど並ぶ売り場なので、帰りの新幹線の前に立ち寄って一度に済ませられます。八食センターは食材そのものを見て回れるのが利点で、営業時間と定休日はVISIT HACHINOHEの施設情報で確認してください。

ひとつだけ注意を。Nvillageにキッチンはありません。共用ラウンジに冷蔵庫・電子レンジ・給湯設備があるだけなので、宿でせんべい汁を作ることはできません。持ち帰り用として買って、家で作ってください。国外に持ち出す場合は、乾麺と同じ小麦の加工品なので比較的持ち出しやすい部類ですが、最終的な可否は渡航先の税関の規則によります。心配な方は出国前に確認してください。

Nvillageから食べに行くなら

Nvillageは八戸駅西口から徒歩10〜12分。せんべい汁を食べに行くなら、夜は中心街の横丁が候補になります。八戸駅と中心街は少し離れていますが、八戸駅からバスで向かうか、最寄りの八戸駅からJR八戸線の電車で本八戸駅まで行き、そこから徒歩でみろく横丁まで行けます。飲んで帰る時間の足は、到着前にご相談いただければ一緒に考えます。

意外に思われるかもしれませんが、中心街まで出なくても、八戸駅の周辺で食べることもできます。駅に隣接するJR東日本ホテルメッツ八戸の中にあるいかめしや烹鱗では、八戸名物のいかめしと一緒にせんべい汁が頼めます。昼から夜まで通しで営業しているので、着いた日の遅めの昼食にも、出発前の一杯にも使いやすい店です。営業時間は変わることがあるので、行く前に公式ページで確認してください。

スマートロックのセルフチェックインなので、遅くなっても誰かを待たせる心配はありません。客室は連泊しやすい作りにしてあり、鍋と炭火のにおいがついた上着も洗濯機と乾燥機でその日のうちに片付きます。何を食べたいかだけ決まっていて店が決まっていない、という段階でも構いませんので、お問い合わせページからご相談ください。滞在の日程に合わせて、昼か夜か、どのあたりの店を当たるかまで一緒に決めます。

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